今日からは分野を変えて、刑事事件について説明していきたいと思います。
高齢者を狙った詐欺、近年急増する「闇バイト」関連の強盗、会社員による横領、人間トラブルからくる傷害・殺人事件・・・
報道番組や新聞、SNSでこのような刑事事件に触れない日は無いかと思われます。
例えばニュース番組だと、テロップで事件の概要や逮捕された方の属性が表示され、事件現場や被害者の写真、目撃者や近隣住民のインタビューが矢継ぎ早に流れ、逮捕された人物が警察官に連れられてパトカーに乗り込む映像が映し出され、「調べに対し、○○容疑者は容疑を認めており、警察は詳しい動機を調べています。」等の一文で締められることが多いと思います。
事件が発生したニュース・犯人とされる人物が逮捕されたニュースはよく報道されますが、逮捕された人がどうなるのか、どういった手続を踏むのかについてはほとんど報道されません。ですので、スーパーでの万引きの事例を例に、逮捕された後の手続について説明していきます。
1 犯行の目撃から任意同行まで
夕食の買い出しのためにスーパーマーケットに来店したあなたは、精肉売り場を物色していたところ、特売品の黒毛和牛のステーキ肉200グラムを見つけました。値段を見ると8000円で、手持ちの現金は2000円しかありませんでした。クレジットカードも持っていませんでしたので、手持ちの現金では買えませんでしたが、どうしても夕食にステーキが食べたかったあなたは、ステーキ肉をひとまず商品かごに入れ、人気のない商品棚のエリアに移動してかごの中のステーキ肉を持っていた手提げのカバンに入れました。
その後、ステーキ肉以外の商品をレジで精算して、そのまま出口に向かおうとした瞬間、私服の男性に声をかけられました。
「貴方、レジに通していない商品を隠してませんか?」
その男性は、万引き被害が多発していたこのスーパーの店内を巡回していた私服の警察官でした。警察官は、ステーキ肉を手に取った貴方を偶然発見し、後をつけていたのです。
あなたはそのままスーパーの管理室に連れていかれ、警察官から事情を訊かれてステーキ肉をカバンに隠したことを白状しました。その後、駆け付けてきた別の警察官と共にパトカーで近くの警察署まで行くことになりました。
(解説)
上記の事例で「あなた」がステーキ肉をカバンに隠した行為は、刑法で規定する窃盗罪に該当する行為です(法律上は、商品をカバンに隠した時点で窃盗が成立(既遂)します)。
警察官は、「あなた」がステーキ肉をカバンに隠した行為を発見し、万引きをしたのではないかと考えて呼び止め、管理室で事情聴取を行いました。警察官による呼び止めと聴取行為は、警察官職務執行法という法律で規定する職務質問にあたるため、過度に身体を拘束したり、回答を強制したりするものでない限りは適法に行うことができます。そして、警察官は職務質問のために対象者を警察署等に同行させることもできます。
これらの警察官の行為はあくまで対象者の任意で行われるものですので、対象者は警察官の質問を無視することができますし、そのまま帰ることもできます。もっとも、今回は警察官が「あなた」の行為を目撃していますので、警察官がそのまま現行犯逮捕する可能性がありますが・・・
2 警察署到着から逮捕まで
警察署に到着したあなたは、所持品検査を受けた後、別の警察官から取調べを受けました。ステーキ肉をカバンに隠した行為は警察官に把握されていると思ったあなたは、隠した行為を警察官に認めて説明しました。
その後、警察官が「供述調書」という文章にサインと指印をするように求めてきたので、ペンで署名をして指印をしました。
指印をした後は一旦自宅に帰されましたが、その翌日の朝、ニュース番組を自宅で見ていたあなたは、インターフォンに写る警察官の姿を確認しました。応対しようと玄関のドアを開けると、「逮捕状」と書かれた書類を持った警察官があなたに向かってこう言いました。
「○○○○さんですね。午前7時55分。窃盗の容疑で逮捕します。」
後ろにいた別の警察官があなたの両手首に手錠をかけ、あなたは再び警察署に連れられることになりました。
(解説)
警察官による取調べの場面が流れるドラマや映画を見たことがある方ならなんとなくイメージが付くと思いますが、警察署での取調べでは、通常二人以上の警察官・職員が担当することになります。一人が質問を行う警察官で、もう一人が質問と回答をパソコンで記録する警察官です。
質問と回答がひととおり終わると、取調べを記録した文章が出来上がります。これを供述調書と言います。この供述調書は、質問の回答者が口頭で事件の内容等を説明する体裁になっています。
例:「私は、令和8年3月17日、○○所在のスーパーマーケットの店内でステーキ肉をカバンに隠しました。今からそのときの状況を説明します。・・・」
この供述調書ですが、法律上は回答者が署名又は押印を行うことによって、後で行われる刑事裁判において証拠として価値を持つことになります。回答者は署名と押印を拒否することができますし、署名又は押印されなかった供述調書は、裁判で証拠として使うことが原則できなくなります。
人を逮捕する場合は、現行犯逮捕する場合を除いて、裁判所が発行(発付)する逮捕状が必要になります。そして、警察官は逮捕状が手元にない状態で逮捕したり、警察署に停めさせることはできません。
上記の事例では、「あなた」を警察署に同行させた時間が夜遅くであり、裁判所が逮捕状をその日の内に発付するかどうか不明であったことから、「あなた」に対する身体拘束を解除して、逮捕状の発付を待って再び拘束しようとしたものと考えられます。
逮捕は強制の処分とされており、逮捕される人がこれを拒否することはできません。ただ、逮捕はあくまでその人が逃げたり、証拠の隠滅をしたりしないようにするための一時的な行為ですので、逮捕=その人が犯罪を行ったとはいえません。後で述べるように、逮捕されずに裁判にかけられるケースもありますし、逮捕されたとしても処分を受けずに釈放されるケースもあります。
最後に、今回のような万引きの事件で報道されるケースはほぼ皆無ですし、逮捕された時点で家族や友人、勤務先に逮捕された事実が知られる可能性はかなり低いです。
ですので、逮捕された人が外部とどうやって連絡するのかについては一つの問題ではありますが、これについては次回説明します。

コメント