勾留された日の次の日は取調べがありませんでしたので、あなたは田中弁護士から差し入れてもらった小説を読んで暇を潰していましたが、午後に田中弁護士が警察署を訪れました。
「午前中に勾留決定の不服の申立てを行ったのですが、認められませんでした。ですので、昨日を含めて10日間は警察署にいないといけません。」
「とはいえ、今回は万引きですし、前科や前歴が無ければ略式処分が出て10日間で釈放になると思いますが・・・確認ですけど、今までに何か警察のお世話になったことはありませんよね?」
実はあなたには、5年前に同じ万引きで罰金刑になった事実がありましたが、初回の面会の時には弁護士に言っていませんでした。言わないと大変なことになるのではないかと思い、田中弁護士に全て白状しました。
「うーーーーん。なるほど・・・・だから検察官は勾留請求をしたのか・・・
○○さん、もしかしたら今回は裁判にかけられてしまうかもしれません。裁判になると、裁判が終わるまでは釈放されませんので、保釈に向けて準備しましょう。」
「それと、被害弁償できない場合に備えてお金を法務局に預けますので、委任状を書いてください」
あなたは大変なことをしてしまったと痛感しつつも、田中弁護士から差し入れられた委任状に署名と指印をして、すぐに弁護士に返しました。
(解説)
万引き等の比較的複雑でない事案で、被疑者本人が事実を認めているような場合は、勾留決定が出されても取調べが殆ど行われないこともあります。刑務所と違い所内で作業に従事することもありませんので、警察署では読書ぐらいしか暇つぶしの方法がありません。本の差し入れはできますので、小説や漫画、雑誌の差し入れを希望する被疑者の方も少なくありません。
勾留の決定が出た後、勾留の決定内容について不服がある場合は「準抗告」という不服申立てを裁判所に行うことができます。準抗告を認めるか否かの判断は、勾留の決定を行った裁判官とは別の裁判官(原則三名)が行い、準抗告を認めて勾留決定が取り消されると被疑者は釈放されます。ですが、裁判官が準抗告を認める可能性は低く、なかなか認めてくれません。
拘禁刑(昔の懲役刑)ではなく罰金刑のみが見込まれる事案で、被疑者が了承した場合は正式な裁判手続ではなく、裁判官が検察官が提出した書類のみで罰金刑を科すかを決める略式裁判によって手続を進める場合があります。この略式裁判ですが、裁判官が早期に判断を行い、早期に罰金刑を科すため比較的早期に釈放されるというメリットがあります(不服申し立てが困難というデメリットも存在しますが)。
万引きの事案の場合、被害額が少額で初犯の場合は略式裁判で終了する可能性が高い一方、既に同種の前科等がある場合は略式裁判ではなく正式な裁判に移行する可能性があります。
検察官が被疑者を起訴して正式な裁判手続に移行する場合は、被疑者は保釈の申請をすることができます(起訴前に保釈の申請をすることはできません)。保釈を許可する決定は裁判所が出しますが、保釈のためには最低一人以上身元引受人を立てないといけないこと、許可決定が出ても決められた保釈(保証金)を裁判所に払わないと釈放されませんので、誰を引受人とするか・保釈金は誰に払ってもらうかについては、裁判が見込まれる場合は事前によく検討する必要があります。
被害者が被害弁償に応じない場合は、被害金額を被害者の住所を管轄する法務局に預ける供託手続をとることもあります。被害金額を法務局に預けた時点で、法律上は被害者に弁償を行ったことと同視されるためです。他にも被害金額を弁護士会や犯罪被害者支援団体に寄付する方法もありますが、検察官(と裁判所)はあまり寄附を重視してくれません。


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